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01 PRRSコントロール事例集−JASVでの販売のお知らせ
 


 
 


第15回 豚病症例検討会レポート
 
 
泣Tミットベテリナリーサービス 羽根 圭亮
大橋   錬
柴山 理彩
 
 

◇症例発表者◇
1.数野 由布子 先生豚サーコウイルス2型(PCV2)、サルモネラ、ローソニアの複合感染が認められた症例
2.香川 光生 先生脂肪性筋ジストロフィーが疑われた症例
3.大久保 光晴 先生PRRSワクチン類似株による肺炎症例


◇コメンテーター◇
 上家 潤一 先生(麻布大学獣医学部)


※病理組織写真は上家潤一先生のご提供。
  <掲載画像の無断転載・複製を一切禁じます>



1.数野 由布子 先生 : 豚サーコウイルス2型(PCV2)、サルモネラ、ローソニアの複合感染が認められた症例

【はじめに】
 近年、豚サーコウイルス2型(PCV2)ワクチンを接種している農場でも豚サーコウイルス関連疾病(PCVAD)を発症する例が見られ、背景として、世界的にPCV2dがPCV2bよりも優勢になるというPCV2の遺伝子型の変化が関連している可能性が示唆されている。Lawsonia intracellularis(ローソニア)とサルモネラ菌の混合感染については、サルモネラ菌の排出量増加を誘発するという報告もある。今回、一貫生産の養豚場にて、PCV2、サルモネラ、ローソニアの複合感染による発育不良が疑われた症例を経験したのでその概要を報告する。

【材料と方法】
 関東地方に所在し母豚600頭を飼育する一貫生産の養豚場において、2021年7月に農場を訪問した際に、離乳舎にて死亡頭数に大きな変化はない(毎月20頭前後)が、削痩する豚が増加しており、下痢が認められた。発育不良を呈していた子豚を採血し、SMC鰍ノおける病原体検査に供した。また、離乳舎にて発育不良を呈していた70日齢の子豚1頭を鑑定殺し、麻布大学PCCにおける病理組織学的検査に供した。

【解剖所見】
 発育不良を呈する70日齢の豚1頭の鑑定殺を行った結果、腸管壁に浮腫が認められた。肺に著変はみられなかった。

【病原体検査】
 病原体検査の結果を表1に示した。血液の定量PCR検査により、病原体検査を行った豚4頭中2頭(60日齢と74日齢)から高コピー数(107 copy/μl)のPCV2が検出された。PCV2が検出された60日齢の豚1頭の遺伝子解析検査を行ったところ、その遺伝子型はPCV2-dであった。その他、病原体検査を行った豚4頭からPRRSウイルスが検出されたが、遺伝子解析検査より、ワクチン株との相同性が99%以上であったことから、ワクチン株と考えられた。
表1 病原体検査の結果

01


【病理検査】
PCC1397
病理所見
著変なし。
結腸
粘膜上皮の先端部が全周性に壊死していた(病理スライド1)。壊死は、一部で粘膜上皮の深部まで達していた(病理スライド2)。粘膜上皮の壊死部に一致して、バランチジウムが認められた(病理スライド2)。抗サルモネラO7およびO4抗体の免疫染色より、粘膜上皮の壊死層に一致してサルモネラO7およびO4抗原が検出された(病理スライド3)。粘膜上皮では杯細胞の減数および陰窩上皮細胞の軽度な増加が認められた。粘膜固有層には脱落したマクロファージが認められた。抗ローソニア抗体の免疫染色より、粘膜固有層内のマクロファージ内および陰窩上皮細胞内にローソニア抗原が検出された(病理スライド4)。ローソニア抗原の陽性像は、主に粘膜固有層内のマクロファージ内にみられ、陰窩上皮細胞内ではわずかであった。
肝臓
グリソン鞘に限局して炎症細胞浸潤が認められた(病理スライド5)。炎症細胞浸潤は好中球が主体で、炎症部に一致してヘモジデリンの沈着が認められた(病理スライド6)。
リンパ節
リンパ濾胞が軽度に萎縮していた(病理スライド7)。リンパ濾胞の萎縮部には、リンパ球の減数およびマクロファージの浸潤が認められた。in situ hybridization法より、浸潤マクロファージ内にPCV2が検出された(病理スライド8)。

01

病理スライド1(結腸):粘膜上皮の先端部における全周性の壊死(矢印:特に壊死が顕著な部分、黄枠内を病理スライド2で拡大)

01

病理スライド2(結腸:病理スライド1の黄枠内を拡大):粘膜上皮の深部まで及ぶ壊死(矢印)および粘膜上皮の壊死部に一致して認められたバランチジウム(矢頭)

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病理スライド3(結腸:抗サルモネラO7抗体の免疫染色):粘膜上皮の壊死層に一致して検出されたサルモネラO7抗原(矢印)。

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病理スライド4(結腸:抗ローソニア抗体の免疫染色):粘膜固有層内に脱落したマクロファージ内に検出されたローソニア抗原(矢印)

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病理スライド5(肝臓):グリソン鞘に限局してみられた炎症細胞浸潤(矢印)

01

病理スライド6(肝臓):グリソン鞘にみられた好中球主体の炎症細胞浸潤および炎症部に一致してみられたヘモジデリンの沈着(矢印)

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病理スライド7(リンパ節):リンパ濾胞の軽度な萎縮

01

病理スライド8(リンパ節:in situ hybridization法):浸潤マクロファージ内に検出されたPCV2(矢印)


病理組織学的診断名
 結腸:壊死性腸炎(サルモネラとローソニア感染を認める)
 肝臓:間質性肝炎
 リンパ節:リンパ球減少による濾胞の萎縮、肉芽腫性リンパ節炎

総合診断名  サルモネラ症

上家先生からのコメント
  • 本症例の結腸にみられたバランチジウムは、粘膜上皮の壊死病変に伴って、浸潤・増加したものと考えられた。
  • ローソニア抗原の免疫染色について、本症例にはローソニア感染で一般的にみられる陰窩上皮細胞内の陽性像はほぼ認められなかった。しかしながら、ローソニア感染では本症例のように主に粘膜固有層内のマクロファージ内に陽性像が認められることもしばしばあることから、その他の所見と総合的に考え、ローソニア感染と診断した。
  • 本症例の間質性肝炎は、サルモネラ症の典型病変に認めるチフス様結節とは異なり、結腸の壊死性腸炎を反映した門脈由来の炎症であると考えられた。
  • リンパ節のin situ hybridization法により検出されたPCV2はわずかであったことから、PCV2感染が本症例の病変にどの程度影響を及ぼしているかは分からなかった。
【対策と経過】
 当該農場では、PCV2ワクチンの接種日齢が製薬メーカー推奨である2週齢に満たずに接種している場合があったため、確実に2週齢以上での接種とし、ワクチンを漏らさず確実に接種していることを再確認した。当該農場は、過去にもS. Typhimuriumが検出されており、当時の薬剤感受性試験結果よりST合剤の感受性が高かったため、ST合剤の飼料添加を行った。また、豚房内の給餌器は取り外して洗浄し、アルデヒド系消毒薬で消毒を行った。さらに、ネズミはS. Typhimuriumを保菌するため、ネズミの駆除を行った。これらの対策を行った結果、死亡頭数に大きな変化はないが、削痩する豚の頭数、下痢の症状が減少した。

【結論】
 本症例では、病理検査に供したことで、PCV2、サルモネラ、ローソニアの複合的な感染が明らかとなり、診断に繋がった。対策として、PCV2ワクチンの接種日齢の見直し、サルモネラとローソニアを豚房内に残さないための豚房の洗浄と消毒方法の改善、投薬の変更を行った結果、発育不良豚の発生を減少させることができた。また、サルモネラとローソニアの複合感染によりサルモネラの排出量が増加するという報告からも、本症例のようにこれらの複合感染が認められた場合は、サルモネラやローソニアを保菌するネズミの駆除も合わせて行うことが重要と考えられた。

【フロアからのコメント】
  • サルモネラやローソニア感染をより明確に診断するためには、病理検査と併用して、PCR検査あるいは分離培養の実施を推奨したい。
【参考文献】
  1. 2016 ISU James D.McKean Swine Disease Conference
  2. 動物の感染症(近代出版)
  3. 新・豚病対策(VENET)
  4. Collins, A. M., Fell, S., Pearson, H. and Toribio, J. A. 2011. Colonisation and shedding of Lawsonia intracellularis in experimentally inoculated rodents and in wild rodents on pig farms. Vet. Microbiol. 150:384-388.
  5. Fernando L. L. Leite, Randall S. Singer, Tonya Ward, Connie J. Gebhart and Richard E. Isaacson. Vaccination Against Lawsonia intracellularis Decreases Shedding of Salmonella enterica serovar Typhimurium in Co-Infected Pigs and Alters the Gut Microbiome. Scientific Reports. volume 8, Article number: 2857 (2018).



2.香川 光生 先生 : 脂肪性筋ジストロフィーが疑われた症例

【はじめに】
 屠畜した枝肉において、褪色し異常な脂肪浸潤がある筋肉病変が確認されることがある。この筋肉病変は屠場関係者や食肉業者の間では「脂肪症」という呼称で呼ばれることが多く、一様に見たことがあり、関係者には比較的認知されている病変であるようだ。今回、そのような病変の豚肉が確認されたのでその概要を説明する。

【材料と方法】
 異常な豚肉は、関東地方に所在するカット工場において2021年9月に確認された。モモ肉の部分で筋繊維に沿って脂肪の層が入り込み、横断面は一見すると霜降り肉のようにも見えた。今回異常が確認された豚肉は直営農場から2021年9月7日に出荷、屠畜されたものである。出荷時の歩行、外見上に異常は確認されなかった。2018年、第12回麻布PCC症例検討報告会にて相原尚之先生の報告された症例に酷似しており、脂肪性筋ジストロフィーを疑い麻布大学PCCに病理学的検査を依頼した。

【肉眼所見】
 骨格筋の褪色と筋繊維に沿った筋状の脂肪が認められた。

01


【病理所見】
 PCC1394
 脂肪性筋ジストロフィーと診断
  • 骨格筋の萎縮、補腔性に脂肪組織が増生(病理スライド9)
  • 骨格筋の変性壊死、マクロファージの浸潤(病理スライド10)
  • ジストロフィンの発現低下(病理スライド11)

01

病理スライド9:骨格筋の萎縮、補腔性に脂肪組織が増生

01

病理スライド10:骨格筋の変性壊死、マクロファージの浸潤

01

病理スライド11:ジストロフィンの免疫染色。不規則な染色性が認められる。

【結果と対策】
 遺伝子変異によるジストロフィン欠損が原因である脂肪性筋ジストロフィーと診断された。そのため系統や血筋の特定をすることにした。出荷された農場は特定できたが、生まれた子豚に対して耳標の装着や耳刻を切っていないため、どの母豚と雄豚との掛け合わせかまでは特定ができなかった。9月の報告以降は特に異常な豚肉が見つかったとの報告はないため、特別に対策は取らず予後経過観察中である。

【考察】
脂肪性筋ジストロフィーを起こす可能性のある遺伝子変異キャリア豚の検出と排除には、現場での膨大な記録と追跡調査が必要となる。本疾病の遺伝子キャリアを排除するためだけでなく、今後より良質な種豚あるいは異常な種豚を選抜していくためにも種豚のDNA型登録が普及していくことが重要である。



3.大久保 光晴 先生 : PRRSワクチン類似株による肺炎症例

【はじめに】
 PRRSは1998年から生ワクチンが普及しており、また撲滅方法も確立されているものの、そのコントロールに難儀する農場も多い。PRRS生ワクチン接種農場におけるワクチン類似株の出現については、一般的には問題ないとされる意見も多いが、今回ワクチン類似株による発育不良・肺炎を引き起こした症例を経験したので、その概要を報告する。

【材料と方法】
 関東地方に所在し母豚500頭を飼育する一貫生産の養豚場(PRRS、APP、M. hyopneumoniae陽性)において、それまで母豚群への年3回(4・8・12月)PRRS生ワクチン一斉接種 で対応していたところ、生産性改善の目的で2020年10月から子豚への離乳時PRRS生ワクチン接種を追加し、2021年3月から母豚群への一斉接種の頻度も年2 回(3・9月)に変更した。その後、JASVベンチマーキングにて、農場成績の推移を追跡していたが、2021年6月から肥育期前半での発育不良豚や肺炎による死亡事故が散見されるとの農場からの稟告により、同年9月に農場を訪問した際、日齢横断的な採血(民間検査機関で各種検査)と合わせて、ウィーントゥフィニッシュ豚舎にて、発育不良を呈した肉豚3頭(110日齢)を鑑定殺し、麻布大学PCCにおける肺PCR検査および病理組織学的検査に供し、そのうち肺のみ民間検査機関における病原探索(細菌検査)に供した。

【臨床所見・肉眼所見】

  1. 検体No.1(PCC1399)
    削痩と腹式呼吸がみられた。体表面は蒼白であった。肺の前葉と中葉に10〜20%の肝変化がみられた。
  2. 検体No.2(PCC1400)
    体表面および内臓は蒼白であった。肺の前葉と中葉に10〜20%の肝変化がみられた。
  3. 検体No.3(PCC1401)
    体表面は蒼白であった。肺と胸腔に癒着が認められた。肺の前葉と中葉に10〜20%の肝変化がみられた。

【病原検索結果】
 肺における病原検索では、PCR検査で3頭中2頭においてPCV2が検出された。また、3頭中3頭においてPRRSウイルスおよびM. hyopneumoniaeが検出された。うち2検体でPRRSウイルスのシーケンス解析を行ったところ、ワクチン類似株であった。インフルエンザウイルスは検出されなかった。
 民間検査機関における細菌検査では、3頭中1頭においてH. parasuisが検出された。

【病原検索結果】
PCC1399
 PRRSウイルスとマイコプラズマによる化膿性気管支間質性肺炎と診断された。
  • 肺:肺胞における壊死した好中球の浸潤(病理スライド12、13)
  • 肺:肺胞上皮細胞の腫大(病理スライド13)
  • 肺:免疫染色にて肺胞マクロファージに一致してPRRSウイルス抗原陽性像(病理スライド14)
  • 気管支:リンパ装置の過形成(病理スライド15)
  • 気管支:免疫染色にて気管支上皮にマイコプラズマ抗原陽性像(病理スライド16)

01

病理スライド12:肺胞における壊死した好中球の浸潤

01

病理スライド13:肺胞上皮細胞の腫大

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病理スライド14:免疫染色にて肺胞マクロファージに一致してPRRSウイルス抗原陽性像

01

病理スライド15:リンパ装置の過形成

01

病理スライド16:免疫染色にて気管支上皮にマイコプラズマ抗原陽性像

CC1400
 化膿性気管支間質性肺炎と診断された。マイコプラズマが検出され、肺の組織像からPRRSの関与が強く疑われた。
  • 肺:肺胞における壊死した好中球の浸潤
  • 肺:肺胞上皮細胞の腫大
  • 気管支:リンパ装置の過形成
  • 気管支:免疫染色にて気管支上皮にマイコプラズマ抗原陽性像
PCC1401
 化膿性気管支間質性肺炎と診断された。マイコプラズマが検出され、肺の組織像からPRRSの関与が強く疑われた。
  • 肺:肺胞における壊死した好中球の浸潤
  • 肺:肺胞上皮細胞の腫大
  • 気管支:リンパ装置の過形成
  • 気管支:免疫染色にて気管支上皮にマイコプラズマ抗原陽性像
【結果と考察】
  病原検索結果と病理組織所見に加え、日齢横断的な採血の結果では、プール血清での検査において、60・90日齢でPRRS-PCR陽性、うち1検体にて株のシーケンス検査を実施し、農場で使用しているPRRS生ワクチン株と相同性99.7%であった。これらの結果を受け、PRRSワクチン類似株による発育不良・肺炎と診断した。費用対効果の面から、子豚への離乳時生ワクチン接種を中止し、母豚群への一斉接種頻度も元に戻し、状況を追跡中である。

【まとめ】
 PRRS生ワクチン接種農場において、ワクチン類似株の出現は軽視されがちであるが、ワクチンの効果判定については、生産成績の推移と合わせて、病原検索、病理組織学的検査を併用することの必要性を示唆された。また、ワクチン接種を開始するにあたって、農場に応じて判断が必要であることを再認識した。状況が改善しなければ、更なる病原検索も行いたい。

 
     
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