日本養豚開業獣医師協会(JASV

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  第7回 国際新興・再興豚病学会

 
日本養豚開業獣医師協会(JASV)
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第9回 豚病症例検討会レポート
 
 
泣Tミットベテリナリーサービス 渡部 佑悟
 
 

◇症例発表者◇
1.水上 佳大 先生(汲かばね動物クリニック) :
   貧血を主張とした急性疾患の事例
2.古川 誠 先生()豊浦獣医科クリニック) :
   養豚団地でのインフルエンザ集団感染疑いの事例
3.石関 紗代子 先生(泣Tミットベテリナリーサービス) :
   サルモネラとアメーバの混合感染が疑われた1症例
4.谷口 笑子 先生(エス・エム・シー(株)) :
   脳の組織病変からみえてくるもの
5.大久保 光晴 先生 (潟oリューファーム・コンサルティング):
   A農場で肉眼的に心臓の出血が認められた4症例

◇コメンテーター◇
 代田 欣二 先生、須永 藤子 先生(麻布大学獣医学部)

◇オブザーバー◇ 山根 逸郎 先生(動物衛生研究所)
※注釈の無い病理組織写真は代田欣二先生のご提供。
  <掲載画像の無断転載・複製を一切禁じます>



1.水上 佳大 先生 :
  
貧血を主張とした急性疾患の事例

 母豚200頭規模の一貫経営農場で2015年7月から80日齢前後の肉豚(同一豚舎)で事故頭数が急増した。症状は食欲不振、体表蒼白、黄疸、腹式呼吸、削痩、歩様異常が認められた。本症例はPCV2ウイルスとPRRSウイルスの複合感染を疑い、麻布大学PCC並びに民間検査機関へ 鑑定を依頼した。

【解剖時所見】
体表面の貧血と黄疸が認められた

【病理検査所見】
気管支肺炎像が認められた:病理スライド@(PCC767)
脾臓において髄外造血像が認められた:病理スライドA(PCC768)

病理スライド@   気管支周囲への細胞浸潤が見られた

03


病理スライドA   
脾臓の髄外造血像(丸印)

03

【考察】
 本事例ではPCV2ウイルスは未検出、PRRSウイルス遺伝子が検出されたが、貧血を引き起こした疾病の診断には至っていない。臨床症状ならびに組織検査、血液生化学検査からヘモプラズマ感染症を疑い、詳細な検査を実施したものの検査結果では否定された。しかしながら、注射針の交換頻度を高め、害虫対策(殺虫剤の散布、駆虫)の実施とドキシサイクリンの飼料添加ならびにオキシテトラサイクリンの筋肉内注射により発症と死亡は減少に転じた。病性鑑定では多くの場合、特定の疾病についてPCR検査並びに細菌分離検査を実施している。今回は病理組織検査を実施したことにより他の疾病を疑う必要性が生まれた。


2.古川 誠 先生 : 養豚団地でのインフルエンザ集団感染疑いの事例

 豚インフルエンザは元気消失、食欲不振、発熱、発咳などの症状を引き起こす呼吸器疾患である。今回は複数の養豚場が密集する養豚団地内でのインフルエンザ集団感染が疑われる事例が見られたため、その概要を報告する。

【農場概要】
 当該農場団地は南関東の山間部に位置しており、6農場が(母豚総数約3700頭)が密集している。このうち弊社がクライアント契約を結ぶ農場は3農場(稼働母豚数530頭)、一貫生産農場で、2015年6月28日頃から40℃以上の発熱を伴う呼吸器症状が認められた。

【症状】
 発咳・発熱、体表の発赤、元気消失、食欲低下を呈する豚が農場内で広がった。また、同様の症状が複数の農場に同時多発的に認められた。

【解剖時所見及び病原体検査】
PCC763:150日齢(死亡豚)
○解剖時所見
 肺葉の肝変化及び水腫様変化
 肺小葉の鮮明化
 気管内泡沫が認められた
●病原体検査
 PCR検査にてインフルエンザ(+)、PRRS(+)
 他の細菌感染は認められなかった。

PCC765:150日齢(発育不良豚)
●病原体検査
 PCR検査にてインフルエンザ(?)、PRRS(2+)
 他の細菌感染は認められなかった。

【病理検査所見】
PCC763
 インフルエンザの典型的病変である壊死性気管支肺炎像が見られる。(病理スライドB)また、免疫染色にて抗インフルエンザ抗体陽性。(病理スライドC)

病理スライドB   気管支内腔に炎症細胞の壊死像が見られた。

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病理スライドC   
気管支上皮に抗インフルエンザ抗体が認められた。(矢印)

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PCC765
・気管支肺炎像が認められた。
・リンパ節にブドウの房状封入体(滴状好塩基性細胞質内封入体)が認められた。免疫染色にてサーコウイルス陽性(病理スライドD)

病理スライドD   
 リンパ節にて滴状好塩基性細胞質内封入体が認められ、免疫染色にてサーコウイルスが認められた。

03


【考察】
 今回の発生は畜産団地内ということもあり、急速な感染拡大があったが幸い肺炎等での死亡豚は多くなかった。発症豚への二次感染予防の対応が功を奏したと思われた。インフルエンザは人獣共通伝染病であり今後も発生状況やウイルス株の確認など病理検査を含めた詳細な調査が必要である。


3.石関 紗代子 先生 :
  サルモネラとアメーバの混合感染が疑われた1症例


 豚のサルモネラ感染症は、豚の生産性を阻害するだけでなく、人獣共通感染症として公衆衛生上も重要な疾病である。また、豚アメーバ症は、下痢の類症鑑別のひとつとして注目されつつある疾病であり、病原性のあるEntamoebaが原因である。一貫生産の養豚場にてサルモネラと病原性アメーバの混合感染の可能性が疑われた症例を経験したので、その概要を報告する。

【農場概要】
 東北地方に所在し母豚280頭を飼育する一貫生産の養豚場において、2015年4月、60〜70日齢の豚群において下痢の発生が認められた。70日齢の重度の削痩を示す豚6体を鑑定殺した。

【解剖時所見】
 小腸内腔にて偽膜の形成が認められた。(下写真)

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小腸内腔にて偽膜の形成が認められた。

【病理検査所見】
PCC744
・偽膜壊死部に抗サルモネラ抗体陽性(病理スライドE)
・粘膜固有層内にアメーバ(E.polechi)が確認された(病理スライドF)
・腸内容にブラストシスチスが確認された(病理スライドG)

病理スライドE   免疫染色により抗サルモネラ抗体陽性

03


病理スライドF   
粘膜固有層の中にアメーバ(E.polechiと特定)がみられた

03


病理スライドG   
腸内容にブラストシスチスが認められた(丸印中)

03

【結果と考察】

 発症豚群には削痩した豚が散見され、豚房内には下痢が見られた。下痢および削痩を示していた豚の鑑定殺を行った結果、盲腸および結腸には偽膜の形成が確認された。病理組織学的検査により、サルモネラ、バランチジウム、ブラストシスチスの混合感染が認められ、病原性アメーバによる腸粘膜の病変が確認された。大腸における免疫組織学的染色によりサルモネラが陽性となった。本症例においてはテトラサイクリン系抗菌性物質の投与とネズミの駆除により、症状の改善が認められた。また、アメーバという想定していなかった病原体の関与を診断できる病理組織学的検査の有用性を改めて認識することができた。


4.谷口 笑子 先生 : 脳の組織病変からみえてくるもの

 SMCへの検査依頼は神経症状・突然死・流産を稟告とした検体は少なくない。このような症例では、内臓だけでなく脳にも肉眼的に病変が認められ、その病変から細菌やウイルスが検出されることがある。今回、脳に肉眼的病変が認められ、PCCで病理組織学的検査を行った症例について報告する

【材料と方法】
 神経症状・突然死・流産の原因探索を目的に依頼が合った検査材料のうち、脳に特徴的な肉眼病変のあった1腹分の胎子(数頭分)と40〜60日齢の合計5件体について微生物検査・PCR検査・病理組織学的検査を実施した。

【病理検査所見】
症例1:脳の水腫状変化が認められた例
検体概要:神経症状・削痩が認められた60日齢の子豚
解剖時所見:脳の大きさや色は著変なし。軽度の水腫様変化が認められた。
病理検査所見:脳の血管周囲に液状物が認められた(病理スライドH)
病原体検査:有意な病原体の検出は認められなかった。しかし2か月後の同様の死亡例ではベロトキシン産生性大腸菌が検出された。
診断名:脳脊髄血管症
以上より、VTEC(浮腫病毒素産生性大腸菌)による死亡であったと考えられた。

病理スライドH   脳の血管周囲に液状物が認められた。(写真中矢印)

03


症例2、3:脳の充血が認められた例
検体概要:突然死亡した52日齢の仔豚(症例2)、神経症状を呈したのち死亡した40日齢の仔豚(症例3)
解剖時所見:症例2、症例3に共通して脳の充血が認められた。
病理検査所見:脳表面のくも膜下腔に好中球の集簇が認められた。(病理スライドI)
病変部位よりグラム陰性短桿菌が確認された。
病原体検査:有意な病原体の検出は認められなかった
診断名:化膿性髄膜脳炎
以上より、菌の同定は出来なかったが、細菌感染が疑われた。

病理スライドI   
くも膜下腔の好中球の集簇巣

03


症例4:血腫の貯留が認められた例
検体概要:遊泳運動が認められた47日齢の子豚
解剖時所見:脳の前頭葉側に血様の塊が認められた。
病理検査所見:くも膜下出血と異栄養性石灰沈着(病理スライドJ)が認められた。
病原体検査:有意な病原体の検出は認められなかった
診断名:くも膜下出血、血腫形成
以上より、原因は不明だが、脳の血管に奇形があり、出血が起こった可能性が考えられた。

病理スライドJ   
石灰沈着(写真中茶色部分)

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症例5:白子の脳の水頭症が認められた例
検体概要:脊椎湾曲の白子やミイラ化胎子が混在した流産胎子
解剖時所見:水頭症が認められた。
病理検査所見:大脳に出血巣及び石灰化が認められた。
病原体検査:PCR検査にて胎子の脳のプール検体から日本脳炎ウイルスが検出された。
診断名:内水頭症
以上より、日本脳炎が疑われた。

【結論】
 神経症状や突然死・流産を稟告とした検体では、原因が特定されない症例も多い。理由の1つとして、農場内で開頭して脳まで病変を確認することが難しい場合が多いためだと思われる。また、流産胎児については、外貌著変以外で内部臓器から病変が確認されることは稀で、病原体の検出もされないことが多い。しかし原因究明には今回のケースのように脳まで病理検査をすることで原因が見えてくることがあり、重要な診断材料となるので、解剖には常に脳の採材を意識して準備をしておくべきである。


5.大久保 光晴 先生 :
  A農場で肉眼的に心臓の出血が認められた4症例


 PA農場へは毎月定期訪問し、死亡豚の発生などにおいては原因究明のため、可能な限り病理解剖を行うとともに、麻布大学PCC(以下、PCC)や民間検査機関にて必要な検査を実施し、対応策を講じている。今回はその症例のうち、離乳舎の子豚で心臓に出血が認められた4症例について報告する。

【農場概要】
 該当農場は母豚3600頭規模のマルチサイト農場で、離乳舎は部屋単位のオールインと棟単位のオールアウトを実施している。2015年は11月末までに離乳舎で11頭解剖し、そのうち4例で心臓出血が認められた。

【解剖時所見】
・心臓の出血

【病理検査所見】
心臓の巣状出血、心筋変性・壊死が特徴(病理スライドK)

病理スライドK   
心臓の巣状出血、心筋変性・壊死

03

【病理検査結果と考察】
 4症例の心臓の出血について、全てマルベリーハート病と診断され、ビタミンE・セレン欠乏症が疑われた。そのため飼料中のセレン添加量を増量して状況を追跡している。定期訪問時に見られる臨床的な問題への対応には、臨床症状、細菌学的検査による判断のみならず、病理組織学的診断が非常に重要である。

【フロアからのコメント】
 マルベリーハート病を引き起こす原因としてビタミンE・セレンの欠乏が考えられるが、最近の研究ではビタミンEの欠乏がセレン欠乏より深く発症に関わっていることがわかってきているとのコメントがあった。

 
   
     
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