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【Standing Group of Experts on ASF for Asia】
第2回ミーティングのオブザーバー参加報告
 
   
 

◇開催日時と場所:
 2019年7月30日〜31日終日、東京一橋講堂
◇オブザーバー参加者: 宮下マリ

<掲載画像の無断転載・複製を一切禁じます>


 アジア地域において急速にアフリカ豚コレラの発生が拡大している状況に鑑み、本年4月、OIE(国際獣疫事務局)とFAO(世界食糧機構)のGF-TADs(越境性動物疾病対策に関する国際的枠組み)のもと、アジア地域のアフリカ豚コレラ専門家会合が設置され、その第1回会合が北京にて開催された。当会合では、アジア地域のアフリカ豚コレラ発生国やその周辺国の防疫担当者や専門家が出席し、アフリカ豚コレラの拡大防止と情報共有を強化に向け、技術的な課題な検討することとなっている。 その第2回会合が、この度東京・一橋講堂で開催された。グループには、OIE、FAO、フリードリッヒ・レフラー研究所(FLI)、欧州委員会、大学関係者、行政、国の動物検査ラボ(主席獣医官)等、アジアを中心に約50名のエキスパートが参加。農林水産省からは熊谷動物衛生課長のほか、複数名参加。初日の12時に吉川農林水産大臣も来られ、短いスピーチがあった。 会議の内容はセッション別にそれぞれのエキスパートや国代表によるプレゼンテーション。各セッションの後にディスカッションタイムを設けた。

01

会場のイメージ:コの字型の座席配置。

02

吉川農林水産大臣のスピーチとマスコミ


エキスパートグループについてのウェブサイトはこちら。
http://www.rr-asia.oie.int/activities/regional-activities/gf-tads-framework/standing-group-of-experts-on-asf/

1.会議の目的:
  • アジア地域におけるASFの拡大防止と清浄化に向けた地域の連携と情報共有の強化
2.キーメッセージ
  • ASFの侵入防止、感染拡大防止に必要な要素は以下のものが重要
    1. 国境・水際防疫:具体的には、空港や港、国境での生きた豚や肉製品の持ち込み防止、旅客の手荷物検査、持ち込み製品のASF検査、旅客に対する注意喚起。
    2. 農場のバイオセキュリティー強化:具体的な内容は国の発生状況や農場によって異なる。農場防疫の「one fits all」は効果がなく、農場の状況に合わせてカスタムメイドでなければならない。一番大きな課題として取り上げられたのは、庭先養豚が多い国の残飯養豚。
    3. イノシシの対策:農場に近づけないようなフェンス等も重要だが、生息頭数も減少させないといけない。ハンターとはしっかり連携しないと成功しない。
  • ASFが近い将来、清浄化される可能性はない。中国は長期にわたりASFが常在化する。また、アジア各地での感染拡大は確実とみられる。特に東南アジアは庭先養豚が多く、制御が難しい。同様に、ルーマニア、ロシア、ベラルーシ、ブルガリア等の東欧の国々でも飼育頭数1〜50頭の庭先養豚が感染拡大の大きな原因となっている。ベトナムの状況は特に深刻であり、すでに350万頭が殺処分されているにもかかわらず、収まる兆しが見られない。
  • ASFは感染力の弱いウィルスである。農場に侵入しても爆発的な感染は見られない。事故率が5%上昇した段階で、農場への侵入からすでに3〜4週間経過していると考えなければならない。一方、致死率は95%と高い。抗体検査は、陰性を証明する以外、意義がない。抗体が陽転する前に豚が死亡するため、唯一の検査としてPCRが有意義である。
  • EUは各国の連携と戦略的手法により、養豚場への侵入を阻止している。EUに加盟していない東欧国での発生が阻止できておらず、それらの国の近くに国境を持つEU国で継続的に養豚場での発生が続いている。
  • ASFの症状は分かりづらい。発熱以外の症状がないことがほとんど。特に成獣や日齢の高い豚(繁殖豚、肥育豚)で症状が見つかることが多い。感染力が弱いため、同じ部屋でも一斉に症状を出すわけではなく、豚房から豚房へとゆっくり広まる。獣医師が発熱を治療するための対策をとると、感染はどんどん拡大するため、獣医師教育が非常に重要である。解剖所見では脾臓の腫大が特徴的である。
  • ASFウィルスは極めて環境中の耐性が強い。冷凍肉と乾燥肉は極めてリスクが高い。餌(特に血漿タンパクと残飯)、針による伝播リスクが高い。特に血漿タンパクはいろいろなメーカーがいて、加熱が不十分な可能性が高い。メーカーのロビー活動も問題。精液のリスクは不明だが、OIEのリスクリストに入っている。軟ダニとヒメダニのリスクは低い(農場間で移動する可能性は低い)。肉製品として安全なのはゼラチンと缶詰のみ(121℃で3分加熱したことに相当するため)。ASFウィルスの死滅条件がまだはっきりわかっていない。ASFの拡散リスクが高い項目:人による肉製品の持ち込み、犬を使ったイノシシ猟(遠くに拡散するため)、航空会社の食品残渣や空港で没収された肉製品の処理、イノシシと食品の接触。
  • ASFを拡散しているのは「人」である。意識を変えることが重要。
  • 「ASFを清浄化すること」と「養豚生産者を守ること」は別のものである。区別し理解する必要がある。
3.国別プレゼンテーションのハイライト
  1. EU/ポーランド
    • EUでは農場の登録と全個体のトレーサビリティー(耳標装着、個体ではなく、農場IDによる識別)が義務付けられている。
    • EUでは豚の移動はすべて中央のデータベースに入力される。国境を通過する場合は検査証明書が必要。
    • 家庭用にと畜する場合は(Home slaughter)、事前の通知と獣医師による事前の検査が必要。
    • ポーランドは2019だけですでに1,495頭の陽性イノシシ、30件の養豚農場での発生があった。これは前年よりも少ない数字である。ポーランドの取り組みは以下のことを強化している。
      • イノシシの狩猟を強化。標的は雌の成獣。ハンターは若い雄をとりたがるので、ハンターとの情報交換、連携が重要。昨シーズンで30万頭捕獲。イノシシは全頭検査(捕獲、死亡)。死体の処理はレンダリング装置のついた車両でその場で実施する。イノシシはすでに120万頭検査済み。死亡イノシシの発見者が必ず通報するような一般市民への啓蒙活動も重要。
      • 養豚場でのバイオセキュリティー強化。わかりやすい情報の供給(なぜこれをやらないといけないのかをしっかり理解するまで説明)、現場での実践的指導(フェンス設置、消毒槽の設置等)。養豚生産者の獣医師に対する嫌悪感(恐怖感)を払拭するための取り組みが一番大事。すでに全農場訪問済み。
      • 教育のための勉強会等の実施:すでに獣医師向け264回、生産者向け1,353回実施。
    • 藁の使用、6月に牧草を与える等は、リスクが高い。藁は最低3か月置いてから使用する。
    • 残飯養豚の禁止はEUに加盟するための条件の一つとなっている。
  2. カンボジア
    • 牛と豚、それぞれ300万頭飼育されている。2019年3月に初発。6月に主要養豚地帯に侵入。
    • 対策:淘汰、移動制限、携帯型PCRによる検査、バイオセキュリティー強化、一般市民への啓蒙活動、国境での獣医検査官の配置。
    • 課題:バイオセキュリティーの不足、放牧養豚、淘汰した場合の補償金がない。
  3. ベトナム
    • 豚の飼育頭数3,000万頭。70%のベトナム料理に豚肉が使用される。豚を飼育する施設や個人農家は250万件。大型コマーシャル農場は1万件のみ。
    • 2019年2月にASF発生。
    • 対策:国境での警戒強化、早期の摘発淘汰と消毒、農家への金銭的補償、海外からのエキスパート招聘と現場検証
    • 課題:長い国境、埋却地の不足(特にメコン川周辺はどこを掘っても水が出る。そのため、環境への汚染が止められない。ベトナムでのASFが現在、制御不能の状態(すでに350万頭淘汰)。
  4. モンゴル
    • 飼養頭数3万頭
    • 対策:摘発淘汰(農家補償なし)、残飯給餌の禁止。
  5. ラオス
    • 飼養頭数300万頭
    • 対策:安楽殺(薬殺)と埋却、ホルムアルデヒドとグルタアルデヒドによる消毒
  6. 日本
    • 熊谷動物衛生課長による発表。すでに農林水産省のHP等で発表されている内容のため、ここでは割愛。
  7. 韓国
    • 2019年7月25日から残飯給餌を禁止
    • 行政主導のイノシシ侵入防止策(農家に対してフェンスやイノシシ忌避剤の提供
    • 北朝鮮との国境周辺のイノシシサーベイランス強化
    • 全農場(6300戸)での検査サーベイランス
    • 肉製品の持ち込み罰金制度の適応(約1,000USD)⇒これまでに10人に適応
  8. フィリピン
    • 1,260万頭飼育
    • 19か国からの豚肉輸入禁止
    • 国境での検査強化
    • 農家、一般市民への教育強化
    • 検査強化
  9. 中国
    • 生産者・農家の95%以上が50頭以下を飼育。
    • 感染リスクとして一番高い項目:残飯養豚、と畜場、幣獣の処理(放置や川への流し込み)、豚の移動。
    • 対策(淘汰や農場防疫強化以外で):と畜された豚の全頭から検体を採材、殺処分をした場合1頭当たりの補償金の引き上げ(800から1200RMB/頭)、最寄のと場を使うことを指導、移動を生豚から豚肉へシフトさせるための対策強化。大型コマーシャル農場化へのシフト政策。
  10. 香港
    • 6万頭の豚を飼育(43農場)。豚肉の需要を満たすため、95%は中国本土から輸入。Warm meat(冷蔵や冷凍されない肉)を好む香港の需要のため、生体でと場に持ち込まれる。また、結婚式等の特別イベントのために、ベトナムから哺乳子豚も持ち込まれる。
    • 2019年5月10日に中国から搬入された豚でASFが検出され、全頭殺処分された。消毒作業等でと場は4日間閉鎖、香港の市場から豚肉が消えた。搬入された豚の購入費は支払義務があり、大きな経済的損害が発生した。その後、6月1日再度、同様の事例が発生した。
    • 摘発淘汰の必要性を問う発表内容となり、質疑応答タイムに会場でヒートアップした議論となった。
  11. 台湾
    • 対策は主に水際防疫に集中。肉製品を持ち込んだ場合、意図を問わず、70万円の罰金となる。2回目は350万円。その場で払えない場合は入国を拒否。ASFリスク国からの渡航者は全員荷物検査を受けさせる。生産者や海外で豚と触れた渡航者は動物検疫所に立ち寄らなければならない(その場で荷物、靴消毒を実施)。
第2回OIE/FAOアジア地域アフリカ豚コレラ専門家会合の結果概要資料はこちら

以上
 
   
     
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