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JASV第7回口蹄疫終息記念セミナー
 
 
 
泣Tミットベテリナリーサービス 戸田 宗生
 
 
開催日時:2018年11月1日
開催場所:千葉県成田ビューホテル

◇講演◇
1.2010年の宮崎での口蹄疫と現状の東アジアでの口蹄疫発生について
   宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター 末吉益雄先生
2.アフリカ豚コレラの発生状況と病態について
   農研機構 動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 山田学先生
3.ロタウイルス感染症とこれからの対策
   農研機構 動物衛生研究部門 ウイルス・疫学研究領域 宮崎綾子先生


◇パネルディスカッション◇

◇コーディネーター◇
  志賀明先生(シガスワインクリニック)
  早川結子先生(イデアス・スワインクリニック)
◇登壇者◇
  末吉益雄先生(宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター)
  山田学先生(農研機構 動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域)
  野津手麻貴子先生(野津手家畜診療所 宮崎県生産者)
  松ケ谷裕先生(旭市養豚推進協議会 千葉県生産者)

 口蹄疫終息記念セミナーは、2010年に宮崎県で発生した口蹄疫の翌年から、口蹄疫を踏まえて見えてきた課題(海外悪性伝染病の脅威、防疫、地域での畜種・業種を超えた連携など)を毎年振り返り、二度とあのような惨事を引き起こさないための教訓として実施しています。
 毎年宮崎県で開催し、セミナー翌日には当時JASVの防疫チームとして参加された会員獣医師、賛助会員の方々などと、復興視察として殺処分した農場の復興経過、殺処分動物の埋設地、メモリアルホールなどを回って当時と復興の様子を改めて心に刻む機会としてきました。
 広く口蹄疫の惨状を皆さんに伝えたいとのことで、今回は新たな試みとして、養豚密集地である千葉県で開催しました。




1.2010年の宮崎での口蹄疫と現状の東アジアでの口蹄疫発生について
  宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター 末吉益雄先生

 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫の凄惨さを、当時の生産者のドキュメンタリー映像を交えながらご講演いただきました。
 当時口蹄疫の発生により殺処分などにより犠牲となった家畜は、牛で約7万頭、豚で約22万頭にも及び、発生地域の農業に甚大な被害をもたらしました。家畜の殺処分や防疫措置にあたった従事者は官民合計158,500人にのぼり、自衛隊も動員されたことから、迷彩色の車両が立ち並び非日常的な光景でした。
 口蹄疫は水牛での発生が最初に確認されてから、主要道路沿いの農家を中心に川南町全体に波及しました。初発が春の連休前であったこともあり、初動の対応が遅くなってしまったことが後に問題として挙げられました。同年5月18日に非常事態宣言が発令されたことから、ワクチン接種および発生10q圏内の全頭殺処分が発表されました。牛舎や豚舎に牛や豚が1頭もおらず、鳴き声も聞こえなくなった情景からは、怒り、無念さ、苦しみ、くやしさ、むなしさ、やるせなさなど様々な思いが伝わってきたといいます。
 アジア地域では継続的に口蹄疫が発生しており、渡航者や輸入品により口蹄疫ウイルスが日本に侵入するリスクは大いにあり、特に日本と地理的に隣接する、台湾や韓国は移動手段の多様化により、時間的な距離も近くなったことから、これらの国からの口蹄疫ウイルスの侵入には十分な注意が必要です。
 口蹄疫ウイルスの豚への感染は牛に比べ多くのウイルス量を必要としますが、豚からのウイルス排泄量は牛の100倍にも達します。豚が口蹄疫に感染すると、哺乳子豚では激しく死亡が観察され、成豚では蹄がとれるほどの出血がみられます。また、家畜保健衛生所の基準では2頭以上に臨床症状がみられることが条件としてあり、その後の対応が遅れてしまう要因となることが課題として挙げられます。


2.アフリカ豚コレラの発生状況と病態について
  農研機構 動物衛生研究部門 越境性感染症研究領域 山田学先生

 2018年11月1日現在、隣国中国で発生が続いているアフリカ豚コレラ(ASF)の発生状況と病態についてご講演いただきました。
 はじめに、感染症と伝染病の違いについてご説明がありました。感染症とは病原体の感染による宿主の病的状態を指し、伝染病とは感染症のなかで急速に伝播、拡大し、社会的に問題となる疾病を指します。1頭2頭の発生では本来伝染病と呼ぶことはできませんが、実際には臨床症状などを見て「これは伝染病だ」とすぐに判断できるかが大切になります。
 ASFは英名で“High contagious febrile disease”と表し、感染力の強い熱性伝染病を意味します。ASFに感染すると、共通して発熱による症状(壁際に集まってうずくまる、震え、食欲不振)がみられ、1週間から10日ほどかけてバタバタと死亡が認められます。感染力が強いため、1、2頭の発生で留まることはなく、豚房間・豚舎間を感染が拡大していきます。感染1週間未満に斃死する症例では、外貌変化をほとんど示さず突然死がみられ、感染1週間以上経った症例では、血便や下痢、呼吸器症状、耳翼のチアノーゼなどの症状を示すようになります。解剖所見では、脾腫(脾臓の色が黒く、幅と厚さを増す)が特徴的であり、胃の周囲のリンパ節と腎リンパ節の黒豆化(暗赤色化)が認められます。成豚(成熟した豚、繁殖用豚)での致死率は低いですが、肥育豚・妊娠母豚での致死率は高い傾向があります。
 感染経路は、豚同士での接触感染、感染豚由来の食肉・食肉加工品の豚への給与、機材・ヒトによる間接感染、ダニ媒介感染(ASFの常在地のみ)が挙げられます。またASFウイルスは食肉・食肉加工品内で長期間生存することが分かっており、これらの食品を介しての感染地の拡大のリスクが懸念されます。
 豚コレラ(CSF)でも共通した発熱の症状などASFと類似した症状がみられますが、細菌の2次感染によって症状は多様化します。また、脾臓の辺縁の全周性の梗塞病変はCSFに特徴的な解剖所見としてみられます。致死率は日齢の若い豚ほど高い傾向があります。
 ウイルスの侵入防止対策は農場バイオセキュリティの徹底であり、特にASFウイルスに汚染された食肉・食肉加工品の農場内への持ち込みは、農場内へのウイルス侵入のリスクが最も高く、徹底した対策が必要です。


3.ロタウイルス感染症とこれからの対策
  農研機構 動物衛生研究部門 ウイルス・疫学研究領域 宮崎綾子先生

 ロタウイルス感染症の病態発生と対策について、ロタウイルスの感染動態と免疫学的な特徴を交えてご講演いただきました。
 ロタウイルスは下痢原性大腸菌やコクシジウムとならび、哺乳豚下痢便より最も頻繁に検出される腸管病原体で、主に若齢豚に下痢や嘔吐を主徴とする急性腸炎を引き起こします。一般に、農場での発生形態は、一腹産子のうち数頭が下痢を呈するような常在的な発生がほとんどです。ところが近年では複数の母豚産子で一腹全頭が発症するような流行性の発生がしばしば報告されています。A群ロタウイルスは感染したら必ず下痢を発症するようなものではないことから、発症に至るまでには、複数の要因が関与していると考えられます。
 ロタウイルスはウイルスの内殻タンパクを構成するVP6タンパクの遺伝子解析により、A〜H群に分類され、そのうちA〜C群が豚の下痢と関連して検出されます。国内では哺乳子豚の下痢便で検出されるロタウイルスの6〜7割はA群であり、離乳豚下痢便では複数の血清群が同時に検出される例が約半数を占めるとの報告があります。
 さらにA群ロタウイルスはウイルスの最外殻を構成するVP7とVP4の抗原性に基づいてG血清型とP血清型に分類されます。国内では少なくとも8種類のG血清型と6種類のP血清型が確認されており、多様な組み合わせのロタウイルスが存在するため、流行株の発生や、ワクチン開発が困難な要因になっています。これらの血清型の組み合わせの多様性は、ロタウイルスのゲノムが分節状に分かれていることに起因します。複数株が同時に混合感染すると株間で遺伝子分節の交換(遺伝子再集合)が生じ、血清型の組み合わせに変化が生じます。
 ロタウイルスの主な伝播経路はウイルスを含む糞便やそれに汚染された媒介物を介した経口感染で、発症豚の糞便が主な感染源です。糞便中に排泄されたウイルスは環境中で安定しており、室温で半年経っても感染性を保持しています。国内5農場を対象とした調査の結果、各発育ステージでロタウイルスが存在することが明らかになりました。各発育ステージで異なる遺伝子型の組み合わせを持つ株が存在する場合、異なる発育ステージ間のウイルス伝播により既存株との間で遺伝子再集合が発生し、農場内でウイルスの多様性が常に維持され続けていると推察されます。多様なウイルス株のうち、分娩舎へ侵入したウイルス株と母豚が免疫を持つ株とが異なった場合にA群ロタウイルス感染症が発生すると考えられます。
 ロタウイルス感染症では異なる血清群(例えばA群とB群ロタ間、A群とC群ロタ間)での交差免疫は成立せず、またA群ロタウイルス間であっても、血清型(G血清型とP血清型)の組み合わせが異なる場合は、下痢症状の軽減は認められるものの感染は防御できません。
 ロタウイルス感染症には、確立した予防対策方法はありません。しかし、予防の基本となるのは分娩舎・離乳舎へのウイルスの侵入と蔓延防止にむけた衛生対策と、子豚が自分のもつ免疫能を最大限に発揮できるような母豚、哺乳豚、離乳豚の飼養管理の実施になると考えられます。


パネルディスカッション

 パネルディスカッションテーマを「宮崎の口蹄疫から学ぼう 海外悪性伝染病のリアリティを実際の対策へ!」とし、対象疾病は口蹄疫に限定せず海外悪性伝染病でくくり、行政、獣医師、生産者それぞれの立場にとっての疾病発生時におけるリアリティを感じていただき、危機意識の共有を実現する目的で行われました。
 トピックスとして以下の3点が挙げられ、それぞれについて、立場の異なる専門家の先生方から意見が述べられました。

  1、まずは正しい情報収集から
  2、入れないための防疫3段階 @国家防疫 A地域防疫 B農場防疫について
  3、それでも発生があったときに、何ができるのか?

 伝染病が発生した場合の早期通報と、通報しやすい環境・関係作りについて意見交換が行われました。
 異常を示した家畜を「感染症」としてではなく、「伝染病」であると判断できることが重要であり、そのためにも緊迫感をもって家畜を観察し、第一例目に気づくことが大切であることが提言されました。一方で宮崎の口蹄疫の事例では、第一例目を通報した獣医師や生産者へのバッシングが起きたことが取り上げられ、こういったバッシングがなされないような地域での環境作りと、伝染病の罹患患畜を発見した際に通報しやすいような、生産者、獣医師、家畜保健衛生所の関係作りが大切であるとの認識が共有されました。
 また伝染病が発生したあとの対応について意見交換が行われ、宮崎の口蹄疫の発生時に通報から診断、防疫措置の流れは定められていたが、埋却地の確保、交通網の遮断において様々な問題が発生したことが取り上げられました。これらの課題に対して、行政や地域組織がリアリティをもって備えをする必要があるとの意見がでました。また地域組織を構築する上で、有事の際に物流によりウイルスを伝播しうる、と畜場、運送会社、メーカー、代理店などの各種業者や、豚とともに口蹄疫などの伝染病の宿主となる牛の生産者を含めて組織を構築し、地域防疫に取り込むことが必要であると結論づけられました。


パネルディスカッションの様子
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セミナー参加者の集合写真
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