病理スライド4:肺胞壁の肥厚および炎症細胞浸潤。出血を伴う胸膜
病理スライド5:肺の免疫染色にてマクロファージに一致してPRRS抗原陽性像が認められる
病理スライド6:肺のin situ hybridizationにて、マクロファージに一致してPRRS遺伝子陽性像が認められる
【結果と対策】
遺伝子検査および病理組織学的検査の結果より、発育不良や呼吸器症状の原因としてPRRSが疑われた。その後、同年4月、5月に同農場においてそれぞれ血清と肺の病原探索を実施したところ、30〜70日齢の子豚においてPRRSウイルス野外株の感染が確認された(PCV2-PCR検査は全ての検体で陰性)。そこで2019年6月〜11月にかけての毎月、ロープ検査(子豚の口腔液を採取し、PRRS-PCR検査および遺伝子シークエンス検査を実施)によって豚舎ごとのPRRSウイルス感染状況のモニタリングを実施することにした。結果は飼い直し豚舎およびその隣接する豚舎でのPRRSウイルス野外株の検出頻度が高かった。
これらの結果より、離乳舎での事故率増加の原因疾患としてPRRSを疑い、対策として2019年6月から、母豚の授乳期飼料と子豚の離乳期飼料へのチルバロシン100ppmの投与および離乳時に子豚へ接種しているPRRSワクチンの種類の変更を実施した。また2019年8月に飼い直し豚舎の使用を中止しピッグフローの変更を実施した。
対策の結果、同年6月以降、離乳舎における呼吸器症状の改善が認められ、それに伴い離乳舎の事故率が低下した(図−1)。またモニタリングの結果より、ピッグフローの変更を実施した8月以降、PRRS野外株が検出される豚舎の割合が減少した(表−1)
図−1:1ヵ月ごとの離乳舎事故率の推移
【考察】
病性鑑定に加えて、1ヵ月ごとにロープ検査を活用したPRRSウイルス感染状況のモニタリングを実施したことで、野外株の検出頻度が高い豚舎および日齢の傾向を把握することができ、対策の検討に寄与した。また検出されたPRRSウイルスの遺伝子相同性を分析することで、同年11月に新たな野外株の侵入が確認できた。今後は農場内のPRRS対策を進めるとともに、新たなPRRS野外株の侵入を防ぐために、農場外バイオセキュリティーの強化にも取り組んでいきたい。
2.呉 克昌 先生 : インフルエンザとPRRSを疑った子豚の呼吸器病の症例
【はじめに】
離乳舎での事故率および淘汰率が上昇した農場において、呼吸器症状と発育不良を呈する子豚が増加した。当該農場では、直近に実施した離乳直後の子豚を対象とした鼻腔スワブによるインフルエンザの定期的サーベイランスで、PCR検査とウイルス分離検査においてインフルエンザ陽性が確認されていた。今回、事故率および淘汰率の上昇の原因究明とインフルエンザ関与の有無を確認するために呼吸器症状と発育不良を呈した子豚を鑑定殺し、病原検索および病理学的検査を実施したので、その症例の概要を報告する。
【材料と方法】
当該農場を2019年9月中旬に定期訪問した際、離乳舎の2頭(52日齢)を安楽死させて病理解剖し、PCCにPRDC(豚呼吸器複合症)9種のPCR検査と病理学的検査を依頼し、民間検査機関にPRRSのPCR検査と遺伝子検査を依頼した。
【解剖所見】
肺は退縮不全を示し、肺門リンパ節の腫脹が認められた。解剖所見からPRRSウイルスの感染が疑われた。
【病原体検査】
PCCのPCR検査で、2検体ともにPRRSウイルス(北米型)およびMycoplasma hyorhinis が陽性、1検体でPasteurella multocida が陽性だったが、インフルエンザウイルスは2検体ともに陰性だった。また、民間検査機関のPCR検査でも2検体ともにPRRSウイルス陽性だった。
【病理検査所見】
2検体ともに化膿性気管支間質性肺炎が認められた。また肺での免疫染色にてPRRS抗原が陽性となった。
PCC1242
化膿性気管支間質性肺炎と診断された。
・肺胞上皮細胞の腫大と肺胞内への細胞の脱落、間質へのマクロファージの浸潤。(病理スライド7)
・肺の免疫染色にてマクロファージに一致してPRRS抗原陽性像が認められる。(病理スライド8)
病理スライド7:肺胞上皮細胞の腫大と肺胞内への細胞の脱落、間質へのマクロファージの浸潤
病理スライド8:肺の免疫染色にてマクロファージに一致してPRRS抗原陽性像が認められる(赤丸印)
PCC1243
化膿性気管支間質性肺炎と診断された。
・肺胞上皮細胞の腫大と肺胞内への上皮細胞の脱落、マクロファージの浸潤。(病理スライド9)
・肺の免疫染色にてマクロファージに一致してPRRS抗原陽性像が認められる。(病理スライド10)
病理スライド9:肺胞上皮細胞の腫大と肺胞内への細胞の脱落、間質へのマクロファージの浸潤
病理スライド10:肺の免疫染色にてマクロファージに一致してPRRS抗原陽性像が認められる(黒矢印)
【結果と対策】
PCCのPCR検査では2検体ともPRRSウイルス(北米型)が陽性となり、また民間検査機関のPRRS遺伝子検査ではPFLPで1-16-1と判定された。当該農場には1-16-1のPRRSウイルス株は3年ほど前に侵入したと考えられ、母豚の免疫安定化と離乳後の子豚、肥育豚のオールイン・オールアウト飼育で対応してきたが、今回の検査結果を踏まえ、追加の対策として哺乳豚でのPRRS弱毒生ワクチン接種を開始した。
一方、インフルエンザについては今回の検体では感染を確認できなかった。しかし以前より離乳舎で定期的に実施している、鼻腔スワブを用いたインフルエンザのサーベイランスにおいてPCR検査とウイルス分離検査でインフルエンザが陽性となっており、また臨床的にも離乳して間もない豚群で咳と鼻汁が散見されたことから、離乳舎でインフルエンザウイルスの感染があることが確認されている。インフルエンザ対策としては年4回、母豚群へのインフルエンザ不活化ワクチンの一斉接種を実施していたが、今回の症例の2ヵ月前に予定されていたワクチン接種が実施されていなかったため、今回の症例発生後に一斉接種を実施した。
また離乳舎において、臨床症状から連鎖球菌症を疑う子豚が多いことが問題となっている。連鎖球菌症対策として、@40日齢以上の子豚の飼料へST合剤の添加を開始、A個体治療の徹底、B母豚群への連鎖球菌不活化ワクチンの接種、を実施した。
これらの対策の結果、離乳舎における事故率および淘汰率の低下が認められた。なおインフルエンザワクチン、連鎖球菌ワクチンの効果については検証中である。また今回の症例では、Mycoplasma hyorhinisが検出され、臨床症状として連鎖球菌症が疑われたことから、事故率の上昇にはこれらの細菌感染症の関与も疑われた。今回の細菌感染症の発生要因としては、豚舎内の環境コントロールが難しい季節であったこと、離乳直後の子豚のインフルエンザ対策として換気量を少なくしていたことが考えられた。
確実な診断のためには、適時完全な検査(安楽殺、病理組織検査、PCR検査、細菌分離検査)が必要であるということを改めて確認した。
|