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第10回 豚病症例検討会レポート
 
 
泣Tミットベテリナリーサービス 数野 由布子
 
 

◇症例発表者◇
1.渡部 佑悟 先生(泣Tミットベテリナリーサービス) :
   高度肝細胞脂肪変性が認められた症例
2.小池 郁子 先生(エス・エム・シー梶j :
   先天性痙攣症(ダンス病)様症状の哺乳子豚の症例
3.石関 紗代子 先生(泣Tミットベテリナリーサービス) :
   豚インフルエンザの症例
4.呉 克昌 先生(潟oリューファーム・コンサルティング) :
   肉眼所見のみでは判断できない 離乳舎の呼吸器複合感染症について
5.渡辺 一夫 先生(潟sグレッツ) :
   離乳後死亡率の高い一養豚場における疾病対策

◇コメンテーター◇
 代田 欣二 先生、須永 藤子 先生(麻布大学獣医学部)

◇オブザーバー◇ 川嶌 健司 先生(農研機構 動物衛生研究部門)
             山根 逸郎 先生(農研機構 食農ビジネス推進センター)
※注釈の無い病理組織写真は代田欣二先生のご提供。
  <掲載画像の無断転載・複製を一切禁じます>



1.渡部 佑悟 先生 :
高度肝細胞脂肪変性が認められた症例

 豚舎環境を適正化することと適切な飼料を給餌することは生産成績を安定化させる。特に離乳子豚は離乳に伴うストレスを受けており、環境ストレスを軽減させることが離乳後食下量の減少を抑制する。さらに飼料に関しては、豚はマイコトキシン汚染に最も影響を受けやすい家畜であり、中でも若い豚や繁殖用母豚の感受性が最も高く、アフラトキシンは免疫系を抑制し、食下量を減少させる。今回、一貫生産の養豚場にて、アフラトキシンによる中毒の可能性が疑われた症例を経験したので、その概要を報告する。

【材料と方法】
母豚450頭規模の一貫経営農場で2016年8月、25日齢~40日齢の豚群において食下量減少と下痢症状が認められた。長期保管飼料は色調が赤褐色に変わっており、変敗が疑われた。2016年9月27日に50日齢の重度削痩を示す豚2頭を鑑定殺し、そのうちの1頭を麻布大学PCC並びに民間検査機関へ 鑑定を依頼した。

【解剖時所見】
肝臓の退色が認められた。(下写真)

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【病理検査所見】
PCC886
肝小葉内に細胞浸潤を伴う中心性脂肪変性が認められた。(病理スライド1)

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【対策と結果】
下痢症状の原因が飼料管理方法にあると考え、離乳直後の室内温度を28℃以上とれるように暖房器具を追加使用した。飼料の発注は細かく行い、飼料の変敗を起こさないようにし、変敗した飼料は給餌しないように指導した。結果、下痢症状の回復が認められた。

【考察】
 変敗していた飼料は採材していなかったため、定量はできていないが、病理組織学的検査による高度肝細胞脂肪変性から、この変敗していた飼料にマイコトキシンが含まれていた可能性がある。マイコトキシンによって食下量減少と免疫抑制がかかり、さらに離乳舎環境が寒いというストレス要因が加わり、結果として下痢症状の発症と削痩につながった可能性がある。今回は変敗が疑われた飼料または発症豚の血液を採材していなかったため、アフラトキシンの関与を特定することが出来なかった。今後、多くの材料を採材して保管しておくことが、より詳細な診断を得るために重要と考えられた。


2.小池 郁子 先生 : 先天性痙攣症(ダンス病)様症状の哺乳子豚の症例

 新生子豚の先天性痙攣症(以下ダンス病)は、古くから知られている疾病である。その原因については不明で、遺伝的な要因、感染症などが挙げられていた。今年、アメリカおよびドイツのグループによりダンス病にペスチウイルスが関与している可能性が示唆された。そこで、ダンス病様症状が散発して見られる農場においてペスチウイルスの有無および病理組織学的検査を行った。

【材料と方法】
 2016年3月頃より一貫経営農場において、初産豚を中心に振せんを主症状とした哺乳豚が月2~3腹確認された。そのうち2検体について微生物検査、ペスチウイルスを含めたPCR検査および病理組織学的検査を実施した。また同農場の症状の認められない初産含めた母豚、30日、60日、90日、120日、150日の健康豚の血液よりPRRS、PCV2、ペスチウイルスのPCR検査を行った。

【解剖所見】
 臓器その他に著変は認められなかった。

【病原体検査】
細菌検査にて有意な菌は検出されなかった。PCR検査では、PRRS、PCV2陰性、ぺスチウイルス陽性であった。 無症状豚の血液からのPCR検査では、PRRS、PCV2、ペスチウイルスは何れも陰性であった。

【病理検査所見】
大脳および小脳含め各臓器に著変は認められずダンス病を示す所見は観察されなかった。

今回の検体からはダンス病を示す所見は観察されなかったが、過去にダンス病を疑った検体PCC651よりダンス病を示す所見が観察されたため参考として述べる。

PCC651
クリューバーバレラ染色(髄鞘を青く染色)にて、脊髄白質で髄鞘の低形成が認められた。(病理スライド2、病理スライド3)
なお、脊髄、延髄、小脳に空胞形成が認められる場合もある。

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病理スライド2:@部分は髄鞘が認められるが、A部分は髄鞘低形成となっている。

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病理スライド3:@部分は髄鞘が認められるが、A部分は髄鞘低形成となっている。


【結果と考察】
 病理組織検査からはダンス病を示す所見は得られなかったが、ダンス病を引き起こすとされるペスチウイルス遺伝子が発症豚で確認された。本症状へのペスチウイルスの関与の可能性が否定できないため、ダンス病様症状時は病理組織材料として、脳から脊髄まで広範囲に採材、検査する必要があった。今後も発症豚の調査、病理組織検査を含めた類症鑑別、疫学的調査を行っていく必要があると考える。


【フロアからのコメント】
 ダンス病の病変は脊髄に高率に出現するため、脊髄を適切に採材することが重要とのコメントがあった。


3.石関 紗代子 先生 : 豚インフルエンザの症例

 豚インフルエンザは、インフルエンザウイルスによっておこる呼吸器疾患である。発症豚は食欲と元気がなくなり、開口呼吸や促拍呼吸、犬が吠える声のような咳、鼻炎、くしゃみ、鼻汁、結膜炎、発咳発作に伴う嘔吐、40.5~41.5℃の発熱、震え、衰弱、体重減少などの症状がみられるとされ、人獣共通感染症としても注目される疾患である。今回、一貫生産の大規模養豚場にて、インフルエンザの発症が長期間継続した症例を経験したのでその概要を報告する。

【材料と方法】
 関東地方に所在し母豚6000頭を飼育する一貫生産の養豚場において2016年7月以降、離乳豚舎において咳の発生が認められたため46日齢の豚(PCC867)を鑑定殺し、麻布大学PCCにおける病理組織学的検査、インフルエンザウイルス分離検査に供した。その後、8月になってからも咳が継続したため、30日齢の豚(PCC869)の鑑定殺を行い、同様の検査を行った。

【解剖所見】
 咳をしていた豚の鑑定殺を行った結果、肺の肝変化が認められ、30日齢の検体では肺気腫も観察された。

【病原体検査】
両検体とも細菌検査にて有意な菌は検出されなかった。PCR検査では、PRRS、マイコプラズマ陰性、インフルエンザウイルス陽性であった。 インフルエンザウイルス分離検査の結果、46日齢の肺からインフルエンザウイルスH1N2亜型、30日齢の肺からはインフルエンザウイルスH1N1亜型が検出された。

【病理検査所見】
PCC867
・気管支上皮細胞の壊死が一部認められた。(病理スライド4)
・気管支間質性肺炎像が認められた。(病理スライド5)
・免疫染色にてインフルエンザウイルス抗原陽性。(病理スライド6)

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病理スライド4:気管支上皮細胞の壊死と再生像が認められた。

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病理スライド5:肺胞中隔が肥厚し、気管支間質性肺炎像が認められた。

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病理スライド6:気管支上皮において、免疫染色にてインフルエンザウイルス抗原陽性であった。

PCC869
・PCC867と比較して気管支上皮病変がやや強く(病理スライド7)、インフルエンザウイルス抗原も多く認められた。(病理スライド8)

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病理スライド7:気管支上皮細胞の脱落(写真左)と再生像(写真右)が認められた。

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病理スライド8:免疫染色にてインフルエンザウイルス抗原が多く認められた。


【対策と考察】

 肺炎対策として、チルバロシン(アイブロシン)を飼料添加した。また、母豚に対して市販のインフルエンザワクチンの接種を開始した。その後、咳の症状は徐々に減少してきているものの、5か月を経過してもまだ完全には収束していない。インフルエンザの長期流行が確認された本症例では、およそ1か月で異なる2種類の亜型のインフルエンザウイルスが検出されたことが、発症の長期化につながった可能性がある。今後も対策を継続し、その結果を評価していく。


4.呉 克昌 先生 :
肉眼所見のみでは判断できない 離乳舎の呼吸器複合感染症について


 農場定期訪問時に3農場中の1農場の離乳舎で事故率が上昇していたことを受け、原因究明と対策の策定のため、麻布大学PCCにPCR検査と病理組織検査を、民間の検査機関にPCR検査と細菌検査を依頼した。肉眼的所見からはマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(M.hyp)、PRRSウイルス、ヘモフィルス・パラスイス(H.ps)、レンサ球菌(Strep.suis)の感染を疑ったが、原因の特定には総合的な検査と最終的には病理組織検査が重要なことを再認識したケースだったので、ここにそれらの症例を報告する。

【材料と方法】
 母豚3600頭規模のマルチサイト生産農場で、離乳舎は3農場に分かれ、部屋単位のオールインと棟単位のオールアウト飼育を、肥育農場は5農場に分かれ、棟単位のオールイン・オールアウト飼育を実施している。2016年10月末の農場定期訪問時に、離乳舎で慢性症状(収容日齢の関係で急性症状はなかった)を示した4頭(安楽殺)と死亡豚1頭の病理解剖を実施し、うち3頭から採材し、PCCにPCR検査と病理組織検査を依頼した。症例1(PCC890)、症例2(PCC891)は46日齢、48日齢でともに体重12kg程度で、細かい腹式呼吸と発育不良が顕著だった。症例3(PCC892)は58日齢体重10kg程度で、細かい腹式呼吸を示し起立困難で極端な発育不良だった。

【解剖所見】
3例ともに間質性肺炎を疑う所見が顕著で、症例1・2では心外膜、胸膜の癒着があり、症例1では腹膜も一部癒着していた。

【病原体検査】
PCCでは、PCR検査より全症例でM.hypの感染は否定された。また、PCR検査で全症例でH.psとマイコプラズマ・ハイオライニス(M.hyr)が、症例2・3でパスツレラ・マルトシダが陽性、PRRSは全症例で陰性と判定された。一方、民間検査機関では、PCR検査で症例1・2がPRRS陽性で判定された。細菌培養ではH.psが症例1の脳・肺から、症例3の心臓・肺から検出され、Strep.suisが症例1の心臓・肺から、症例3の脳・心臓から検出された。

【病理検査所見】
PCC890
間質性肺炎、心外膜・胸膜の漿膜炎と診断された。
・気管支間質性肺炎像が認められた。(病理スライド9)
・線維素性心嚢炎が認められた。(病理スライド10)

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病理スライド9:間質に好中球を主体としたリンパ球浸潤が認められ、肥厚していた。(丸印)

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病理スライド10:心嚢にレンサ球菌が認められた。

PCC891
間質性肺炎、心外膜・胸膜の漿膜炎と診断された。
・気管支間質性肺炎像が認められた。(病理スライド11)
・免疫染色にてPRRSウイルス抗原陽性。(病理スライド12)

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病理スライド11:肺胞壁の肥厚と肺胞腔内に細胞浸潤が認められた。

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病理スライド12:免疫染色でPRRSウイルス抗原陽性となった。

PCC892
気管支肺炎、化膿性髄膜炎と診断された。
・気管支肺炎像が認められた。(病理スライド13)
・免疫染色にてPRRSウイルス抗原陽性。(病理スライド14)

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病理スライド13:気管支周囲にリンパ球浸潤が認められた。(矢印)。

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病理スライド14:免疫染色でPRRSウイルス抗原陽性となった。

【結論】
 個々の検査においては一致しない結果もあったが、原因特定と有効な対策の策定には複数検体で総合的な検査の実施が重要なことが示され、今回のA農場の離乳舎の事故率上昇にはPRRSウイルス感染が基本にあり、M.hyrの関与により肺炎が相乗的に悪化し、H.psやStrep.suisの2次感染菌の感染を起こしたと診断した。また、M.hyp に関しては、PCR検査陰性結果及び病理組織検査でも特徴的な所見(気管支周囲の肺胞腔内での好中球、マクロファージの浸潤やリンパ濾胞の過形成)が無く、その関与が完全に否定されたことは診断には肉眼的病理所見だけでは不十分なことを再認識した。なお、より正確な診断には急性期の豚の検体を採取することが好ましい。これらの結果を受けて、離乳前子豚でのPRRS感染状況を把握し母豚の免疫安定化対策に着手するとともに、離乳舎では薬剤感受性試験をもとにした抗菌剤での離乳後3週間の個体治療徹底

5.渡辺 一夫 先生 :離乳後死亡率の高い一養豚場における疾病対策

 2012年以降の離乳後死亡率が15%前後と高い養豚場において、2016年6月から死亡率低減対策を試みたのでその概要を報告する。

【材料と方法】
 千葉県北東部地域の養豚密集地帯に位置する母豚250頭の一貫経営の養豚場にて、2015年7月〜2016年6月に死亡した722頭について死亡時の体重および日齢について単回帰分析を行った。さらに2016年6月に母豚16頭、肥育豚24頭の採血を実施し抗体検査を依頼した。2016年7月~10月に死亡した肥育豚10頭について細菌検査、リアルタイムPCR検査を実施した。この10検体の肺と肺門リンパ節の病理検査をPCCに依頼した。

【発生状況】
単回帰分析から死亡時の体重と日齢(r=0.768,P<0.001)とに高い相関が認められた。子豚舎において、60日齢を経過すると呼吸器症状を呈するものが増加し、発症豚の多くが慢性経過で死亡した。これにより子豚舎と肥育舎の双方で死亡率が上昇した。

【抗体検査】
Appは120日齢以降、M.hpは150日齢以降、PRRSは60日齢以降そしてPCV2は180日齢で抗体価が著しく上昇していた。

【細菌検査】
 3頭の肺から多剤感受性のパスツレラおよびレンサ球菌が分離された。

【ウイルス検査】
 全例からPRRSウイルスが検出された。また、PCV2は全例とも検出されなかった。

【病理検査所見】
全例ともPCV2感染は否定された。そして7頭が気管支間質性肺炎、3頭が気管支肺炎と診断された。
(下図)
※ND (Not done):病理組織学的に特定病原体感染が疑われなかったため、免疫染色を実施せず
※Neg (Negative):免疫染色を実施し、特定病原体感染の陰性を確認

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PCC876
気管支肺炎、化膿性髄膜炎と診断された。
・気管支炎像が認められた。(病理スライド15)
・免疫染色にてマイコプラズマ・ハイオニューモニエ抗原陽性。(病理スライド16)

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病理スライド15:気管支の横にリンパ装置過形成が認められた。(矢印)

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病理スライド16:
気管支上皮細胞の先端において、免疫染色にてマイコプラズマ・ハイオニューモニエ抗原陽性であった。

PCC881
・気管支間質性肺炎像が認められた。(病理スライド17:写真左)
・免疫染色にてPRRSウイルス抗原陽性。(病理スライド17:写真右)

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病理スライド17:
間質の肥厚が認められ(写真左)、免疫染色でPRRSウイルス抗原陽性となった。(写真右)

PCC883
・壊死性化膿性気管支肺炎像が認められた。(病理スライド18:写真左)
・免疫染色にてApp抗原陽性。(病理スライド18:写真右)

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病理スライド18:
壊死した白血球が認められた気管支において、免疫染色にてApp抗原が認められた。

PCC885
・気管支間質性肺炎像が認められた。(病理スライド19:写真左)
・免疫染色にてPRRSウイルス抗原陽性。(病理スライド19:写真右)

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病理スライド19:
肺胞上皮の肥厚と白血球の浸潤が認められ、免疫染色にてPRRSウイルス抗原陽性となった。(写真右)

【結論】
 子豚舎で呼吸器感染症に罹患したことが高い死亡率の原因であった。死亡豚の発生状況、抗体検査および剖検所見から当初PCVADを強く疑った。しかし、病理検査所見などにより、肥育舎を感染源とするPRRSと細菌の混合感染が原因と判明した。このため、発症初期の豚群にツラスロマイシンを全頭投与したところ、子豚舎の発育状況が著しく改善され死亡頭数も減少した。しかし、肥育舎の死亡率の改善にはさらに時間を要するものと考える。
 
   
     
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