1.石川 弘道 先生 :
豚サーコウイルス2型とインフルエンザウイルスによる混合感染症例
7月より離乳舎で肺炎症状が見られ事故率が増加した。検査結果より豚サーコウイルス2型と豚インフルエンザウイルスによる混合感染が見られたので、その概要を報告する。
病理組織学的検査結果及び免疫組織染色にてPCV2ウイルス感染像が見られた : 病理スライド@(PCC688)
免疫組織染色により豚インフルエンザウイルスが検出された : 病理スライドA(PCC690)
病理スライド@ |
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周囲の細胞浸潤とPCV2陽性像が同じ部位に
おいて見られる。 |
全身リンパ節において多核巨細胞が見られる(矢印) |
病理スライドA リンパ節の濾胞萎縮とPCV2免疫染色
左写真 : インフルエンザ免疫染色 右写真 : 気管支上皮細胞の壊死と間質の肥厚
PCR検査結果と病性鑑定結果から、今回の離乳舎での事故率の上昇はPCV2の感染が関わっている可能性が高いと考えた。サーコワクチンは接種しているが、接種時期が適切ではなかったと考えられる。サーコワクチンの接種日齢を離乳時に変更した。
2.水上 佳大 先生 : 哺乳豚における原因不明の失血死症例
愛知県内の養豚場密集地域において、PEDが再発した養豚場で原因不明の失血死症例が見られたため、その概要を報告する。
【農場概要】
稼働母豚数120頭、一貫経営。
4月18日にPEDが発生し、5月中旬頃症状は沈静化した。
【症例】
1週齢哺乳豚。同腹哺乳豚全てに全身性の皮下出血が認められた。(去勢実施時に皮下の出血確認)。重症豚は死亡したが、軽症豚は生存。
【解剖時所見】
皮下及び腹腔内に多量の出血
心臓・腎臓に点状出血、肝臓に出血斑、鼠径リンパ節の軽度充血、腫大
下痢
【病理検査所見】
心内膜下、心外膜に出血を認める:病理スライドB。肝臓において髄外造血。腸において固有層、漿膜に出血を認める:病理スライドC。リンパ節の血液吸収像。
【病理診断】
標本上で血管の破綻像や微小血栓の形成は認められなかった。組織像から見る限りでは、血液の成分、血小板や凝固因子の異常などがあるのではないか?
病理スライドB |
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心内膜下、心外膜に出血が認められる(矢印) |
【結論と考察】
今回の症例について確定診断を得ることはできなかったが、病気の発生を生産者が早期に発見できたことに意味がある。今回は血小板を調べることが出来なかったため血友病などの遺伝性疾患を調査することが出来なかった。血液疾患を疑う際は骨髄(胸骨)を検査に出すと良い。
3.高橋 久美子 先生 : 病理組織検査を併せた神経症状の診断
SMCへの検査依頼は年間約70000件ある。そのうち神経症状の検査依頼も少なくはなく、その原因も発症日齢の幅も様々である。今回はそのうち、原因の特定に疑問が残った2症例について紹介する。
[PCC656] 21日齢、ダンス病様の神経症状を示す、解剖時所見{脳の充血。肺の退縮不全。左心房弁に心内膜炎。心筋に充血、血様心嚢水の貯留。脾臓と腎臓に異形を認める}、微生物検査{Streptococcus suis検出}、病理検査{大脳にて化膿性脳室脈絡嚢炎:病理スライドD。心臓内膜にてグラム陽性球菌}
【病理検査所見】
脳および心臓内膜からもグラム陽性球菌を認めており、連鎖球菌症が疑われる。
病理スライドD |
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化膿性滲出物が多数認められる |
グラム陽性菌が見られる(青色) |
微生物検査と病理組織検査の結果から、症例はレンサ球菌症と診断した。神経症状の原因もレンサ球菌によるものであったと考えられる。
[PCC655] 生後40日齢で神経症状を発症し、起立不能となるがペニシリン治療により回復。60日齢で再び神経症状が現れペニシリン治療を行うが改善されず、鑑定殺を行った。
解剖時所見{脾臓の腫大や胃粘膜の炎症。頭蓋内および側脳室に無色透明の液体貯留}、微生物検査{Streptococcus suis検出}、病理組織{大脳にて大脳皮質の菲薄化および側脳室の拡張:病理スライドE。小脳組織の萎縮}
【病理検査所見】
大脳皮質の菲薄化および側脳室の拡張が認められ、内水頭症と診断。
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正常な63日齢の豚 小脳 |
症例 |
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・分子層が薄い
・プルキンエ細胞層のプルキンエ細胞の減少(丸印)
・顆粒層の細胞膨化 |
今回の検体が内水頭症に至った原因が何によるものかは不明だが、農場内で同症状の多発がみられない点と脳炎が認められない点から先天的なものと思われる。
微生物検査によりレンサ球菌も検出されたが、今回の神経症状の主因は脳の異常によるものと考えられる。
4.呉 克昌 先生 :
PED発生経験農場でPEDが否定された腸管感染症の事例
PED発生経験のある農場でPEDを疑う下痢が見られたが、検査の結果PEDが否定された症例を紹介する。
農場1
・母豚規模460頭
・2014年5月にPEDが発生。計画的自然感染を実施した。
・5月末にはPED症状は沈静化した。(母豚数に対する哺乳子豚死亡比率1.34)
・9月農場訪問時に離乳舎にて下痢が散見されたため、PEDウイルスの関与を疑った。
【病理検査所見】
・十二指腸、回腸、大腸で血栓形成伴う粘膜の出血、及び壊死性腸炎。壊死部にグラム陰性桿菌が認められ、細菌性の病変 : 病理スライドF。
・胃で粘膜固有層、粘膜下織の毛細血管、静脈に多発性血栓形成を伴うリンパ球性胃炎
・肝臓、腎臓、脾臓にうっ血
【対応】
離乳直後PEDvの感染があり、細菌と混合感染を起こすと判断して対応した。
1.子豚離乳方法の見直し、離乳後は即移動するようにした。
2.離乳舎での洗浄、消毒の強化
3.離乳後1週間のコリスチンと3週間の生菌剤の飼料添加
【結果】
1.10月中旬より下痢はほとんど見えなくなり、12月定期訪問時も状態は維持されていた。
2.オールアウト後の豚舎の洗浄・消毒強化と、豚舎間の人、物の動きの規制強化実施中
農場2
・母豚規模1000頭
・2014年5月にPEDが発生。計画的自然感染を実施した。
・5月末にはPED症状は沈静化した。(母豚数に対する哺乳子豚死亡比率0.13。後日、保存サンプルの検査でINDEL株と判明)
・9月農場訪問時に肥育舎にて下痢が散見され、原因究明のため麻布大学PCCに病理組織検査を依頼した。
【病理検査所見:PCC680】
・腸は死後変化高度、空腸は腸絨毛の軽度萎縮
・うっ血性肺水腫 : 病理スライドG
・脾臓うっ血
・胃充血
・巣状心筋変性 : 病理スライドG
病理スライドG |
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水腫が見られる(矢印) |
心筋変性(矢印) |
【病理検査所見:PCC681】
・空腸の粘膜表面に壊死像 : 病理スライドH
・肝臓、腎臓、脾臓うっ血
・肺は著変なし
・濾胞性胃炎
【対応】
サルモネラの敗血症、下痢が主因と判断
1.ニューキノロン系およびST合剤の抗生物質の投与
2.肥育舎全体の環境調査
3.オールアウト後の洗浄・消毒の強化
【結果】
1.その後続発なし
2.オールアウト後の洗浄・消毒強化は1回転継続中(通常の洗浄・消毒・乾燥後にドロマイト石灰塗布)。離乳直後PEDウイルスの感染があり、細菌と混合感染を起こすと判断して対応した。
【考察】
腸管感染症の診断には病理組織検査、PCR検査、細菌検査の総合的な実施が重要であり、その検体はできれば淘汰して採材するのが理想的である。しかし、限られた条件下でも確定診断のために病理組織検査を実施することは意味があり、重要である。 |